Japan Trek 2016
3月から4月にかけ、LBS Japan Trek 2016を開催いたしました。多くの方々のご支援の下、無事Japan Trekをとりおこなうことができましたので、こちらでご報告させていただければ思います。
1.Japan Trekとは何か
LBSに入学すると、多くの新入生は上級生から次のようなアドバイスを受けます。「絶対に参加するべきイベントが3つある。Snow Trek、MBAT、そしてJapan Trekだ」。
LBSには約70カ国と実に多様な国から学生が集まっており、各国の出身学生が中心となり自国の文化や伝統を紹介するツアーが年間数十も企画されます。Spain Trek, Portugal Trek, Israel Trek, Africa Trek, Brazil Trek, India Trek …枚挙にいとまがありませんが、その中でひと際異彩を放っているのがJapan Trek。これまでに開催してきたJapan Trekの評判が評判を呼び、今ではLBS随一のイベントと認知されています。入学当初同級生と自己紹介をし合い、私が日本人と分かるや否や、「今年はJapan Trekはいつ開催されるんだ」「俺のチケットは絶対に取っておいてくれ」と物凄い剣幕でアピールされたものでした。
Japan Trekを企画運営するのはLBS Japan Clubメンバ有志の幹事団(Organizer)。直近3年間の参加者数は毎年120名程度で、今年度も125名33国籍の同級生が日本を訪れました。尚、LBSの学生数は一学年約400名、Japan Trekの規模がいかに大きなものかお分かりいただけるのではないでしょうか。
Japan Trekの目的は、将来活躍が期待される世界中のビジネスエリートの卵達に日本のことを知ってもらい、好きになってもらい、“コアファン”を増やすこと。LBSの授業では日々世界中の企業や社会のCase Studyを扱う中で、悲しいかな日本の存在感は決して高くはありません。参加者の多くにとって、Japan Trekが初めての訪日で、彼らの目に映る日本は「謎の経済大国」。彼らに日本の文化や伝統、歴史、最新トレンドを紹介し、体験してもらうことで、日本への理解を促進していくことが、LBS日本人学生としての使命のようにも思えるのです。またビジネスの視点からは、多くのMBA学生が「中国は人生で仕事で絶対に行くから今いかなくても良い。日本はビジネスで行くことはなさそうだが、文化はクールだから行ってみたい!」というモチベーションを抱いてTrek参加しているのが現実。Japan Trekが、「日本には様々なクールなものに満ちていて、世界に通用するビジネスの種もたくさんある!」という発見を促すきっかけとなるよう、入学直後から半年間懸命に準備を進めてまいりました。
2.開催までの道のり
(1) Organizerチームアップ
入学間もない9月から、Japan Trekの企画が始動しました。日本から来た学生10名に加え、日本に関心を持つ外国人学生を積極的にヘッドハントしていった結果、韓国、中国、チリ、スペイン、ギリシアの学生がOrganizerへの参加を表明し、計15名のチームでJapan Trekの企画を始めました。各メンバが担当分野を受け持ち、週に一度のミーティングがTrek直前の3月中旬まで開催されました。(2) Trekの骨子決定
1か月以上の議論と過去のJapan Trekの分析を通して、以下のように概要を決定しました。- 参加人数:120名(最終的に125名、Organizer 15名)
- 旅行日程:2016年3月27日~4月2日(6泊7日)
- 訪問先:京都(2泊) ⇒ 有馬(1泊) ⇒ 東京(3泊)(図1)
- オプショナルツアー:22種類 (図2)
図1:Japan Trek 2016工程概要

図2:オプショナルツアー一覧

(3) プロモーション・チケット販売
12月初旬のチケットリリースに向け、11月中旬から各方面からのプロモーションを行いました。学年全体向けの合同説明会やSNSに加え、各Organizerがクラス毎に精力的にプロモーションを実施しましたが、ここでは外国人Organizerの機動力・ネットワーキング力に大いに助けられました。学年全体のJapan Trekに対する期待を肌で感じつつ、刻一刻と迫るチケットリリースに向け、Trekの細部を検討していきました。この時点で一番のネックになったのが、チケットのプライシング。“インバウンド”の過熱ぶりについては日々のニュースを通してお聞き及びと思いますが、Trekが開催される4月は宿泊施設の需要が逼迫しており、検討したいずれのホテルからも前年比20~30%高の宿泊費を提示されました。学生の身分である参加者のためにできるだけ金額は抑えたい半面、赤字を出すことは許されないというジレンマの中、チケットリリース直前まで議論は続きました。結局前年度比£50~100高の価格価格設定でのリリースが決定し、行内イベントチケット販売用のLBSイントラに諸元をセットして当日を待つこととなりました。
来るチケットリリース当日、正午。LBS校内のとある一室、モニターを食い入るように覗き込む15人。
「113枚!」
「82枚!」
「67枚!」
モニター上の数字は見る見るうちに減っていく。 「41枚!」
「24枚!」
「0枚!完売だ!」
上がる歓声。ほんの44秒間の出来事でした。Japan Trekへの期待はOrganizer一同体感していた一方、チケットを値上げしているだけに、果たして売り切ることができるだろうか一抹の不安を感じていた我々でしたが、そんな不安は一瞬のうちに払拭することができました。この後昼からみんなで飲んだシャンパンの味が忘れられない!
その後2月にはオプショナルツアーに関する説明会、3月には日本の文化、宗教、伝統、流行等を紹介する勉強会等を開催し、参加者のTrekへの期待は最高潮に達しました。
(4) スポンサー企業様への協賛ご依頼
1月からは、各企業様向けにJapan Trekの趣旨をご紹介し、本Trekへのご協賛をご依頼させていただきました。今年も多くの企業様にご協賛いただき、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。特に2015年12月のチケット完売直後から歴史的な推移でポンド安が続き、資金不足により一時はTrekの開催そのものが危ぶまれた時期がありました(昨年末の185円/ポンドから、最低で150円/ポンド台までポンド安が進行。予算の2割が消えた計算)。無事Trekを開催できましたのもの、こうした多くの企業様のご協賛あってこそと考えております。余談ではありますが、説明会やTrekを通して協賛に関するこうした企業様のご支援を紹介したところ、(パンフレット・HP掲載の企業様コメントを見つめながら)「日本の文化を伝えるために、学生のこのような取り組みに協力を惜しまぬ日本企業の精神に感動すら覚える」(ブルガリア人・男性)といったコメントを多数いただきました。
3.旅の模様
国籍もバックグラウンドもバラバラな大集団。我々は旅行のプロフェッショナルではありませんし、どれだけ細部を詰めたとしても、想定外のことは必ず起きるはず。最後はOrganizer個々人が現場レベルで臨機応変・柔軟に対応していくことを前提にプログラムを設計していきました。Organizer同士が心から信頼し合えたからこそ成せる業であったと言えます。各所で挙がる参加者の希望に応じてその場で訪問先を変更したり、「見たい・食べたい・やってみたい」というものを一緒に経験してみたりと、結果として参加者の満足感を高めることにつながったと感じています。また、外国人Organizerは“外国人から見た日本”という視点を数多く与えてくれ、参加者が抱くべき疑問や予め配慮するべき留意点など、日本人のみでは思いもよらぬような点について予見し、準備することができました。
(1) 京都
初日、居酒屋でのWelcome Party。ここで1週間毎日連呼することになる魔法の呪文、「Kanpai!」を全員が覚えました。 翌日は多くの参加者が着物に袖を通し、一日かけて金閣寺、嵐山、清水寺等、京都の街をそぞろ歩きしました。ほとんどの参加者にとって初めての日本、普段見慣れた欧州のそれとは全く異なる街並みが桜吹雪と織り成す情景に心打たれた様子でした。道中、「神社と寺の違いは何か」「なぜ日本は木造建築が多いのか」「天皇とは何なのか」といった数々の質問を受け、彼らの日本に対する関心の高さを肌で感じとることとなりました。夜は小グループに分かれての夕食。料亭での芸者遊びに興じる者もいれば、京野菜に舌鼓を打つ者もあり。中でもすき焼きの反響が高く、初めは人生初の生卵に戦々恐々としていた参加者も、お開きまでには卵を何個もお代わりしていました。
(2) 京都・広島・奈良
翌日は、参加者の希望に応じて京都のさらなる探索、広島、奈良の三手に分かれての行動。広島の平和記念資料館では、集合時間ぎりぎりまで、それぞれの展示や説明を真剣に見て、戦争の凄惨さを全員が感じとっているようでした。上記の通り、今回のTrekでは広島は希望者のみ参加のプログラムとしましたが、広島を訪問したある参加者からはこのようなコメントを貰いました:「広島で起こったことは、人類全員が知るべき出来事だ。来年のTrekでは、広島を全員参加にすることを提案したい」
奈良への訪問は本年度初めての試みで、チリ人の女性Organizerの提案で実現しました。訪日経験のある彼女は、以前奈良を訪れた際に受けた静かな感銘を参加者にも伝えたいとの動機で、奈良訪問の企画・引率役を買って出てくれたのでした。東大寺と春日大社を訪れる傍ら、奈良公園で愛くるしい鹿との触れ合いに多くの参加者が心を癒されているようでした。その後、奈良の道場にて真剣による居合体験。刀を握った参加者の面持ちは真剣そのものでした。
(3) 有馬温泉
「全員裸にしてやろう!」をスローガンに、Trek前から温泉についてプロモーションしていきました。というのも、裸で共同入浴する風習のある国は少なく、「Japan Trekは行きたいし、伝統的な“Ryokan(旅館)”にも泊まりたいけど、みんなの前で裸になるのはちょっと…」「私は温泉は遠慮して、部屋風呂に入るわ」という声が少なからず挙がっていたためです。我々は“Hadaka-no-tsukiai(裸の付き合い)”のコンセプト紹介からはじめ、温泉がいかに素晴らしいものかを説いて回り、外国人が日本の温泉を絶賛するビデオを紹介し、しまいには「お前と裸で風呂に入りたいんだ!」と力説していきました。その甲斐あってか、ほぼ全員が温泉を経験し、事後アンケートでも“Arima was amazing!!!! I wanted to take as many baths as I could possibly have!!”なるコメントを数えきれないほどもらいました。宴会は、日本旅館の広々とした畳敷きの大宴会場にまずびっくり。全員が浴衣を着ての参加で、Organizerの織り成す宴会芸や、参加型の二人羽織に一同大盛り上がりでした。
(4) 東京
とうとう旅の最終目的地、東京。古都京都、古き良き温泉街有馬を体験してきた参加者は、前日まで体験してきた日本とのギャップに感嘆します。東京では、個々人がそれぞれの興味に沿ったオプショナルツアーを選び、少人数に分かれて行動しました。日本の文化や伝統等を実体験してもらえるオプションを多数用意したのが、今年度のTrekの特徴です。築地巡りや茶道体験は序の口。蕎麦打ち体験や寿司教室、中には食玩作り(喫茶店等で見かける食品サンプル)といった極めて渋いものまで用意しました。120人の参加者が120通りの東京を発見し、その視座を参加者同士で交換することを楽しんでいるようでした。
慌ただしかったTrekもいよいよ最終日。近年外国人の定番観光スポットになりつつある渋谷スクランブル交差点からほどない天空レストランでのFarewell Party。酒樽の鏡開きで勢いよくスタートし、続いてOrganizerが直前まで必死に編集し旅の想い出を凝縮したVTRに一同釘づけ、最後はOrganizerの胴上げで締め。日本を堪能した幸せそうな120人分の笑顔を見て、大きな達成感で満たされた15名のOrganizerの清々しい姿がそこにはいました。
4.Japan Trekを終えて
(1) 参加者の声
旅の途中、そして終わりに近づくにつれ、参加者から様々な声が寄せられました。『日本のことを知ってもらい、好きになってもらい、“コアファン”を増やす』ことを目標として掲げてきた我々にとって、このような声を聴けることは、Organizer冥利に尽きるものです。- 驚くべきホスピタリティと、素晴らしい文化だ。出会った日本人一人一人が信じられないほどFriendlyで、親切だった
- 日本はなんてきれいな国なんだ。街を歩いていても、ゴミ一つ見つからない。国民一人一人が清い哲学を持つことなしに、これを実現することはできない
- 日本は決して“Disconnected”な国などではなかった。我々外国人は、日本の中で自分の居場所を探すことができる
- 歴史ある街並みの京都。摩天楼を擁す東京。これが一つの国につまっているなんて、信じがたい
- 食べたことないものばかりだ。寿司・天ぷらだけが和食じゃないんだ。生卵を食える国が日本以外にあるか?日本のカレーは最高だ
- 美しくおいしい食事の数々に魅了された。秋葉原のCrazyさには度肝を抜かれた。本当に日本が好きだ
- 広島では、日本に降りかかった悲劇を垣間見た。それは、人類全員が直視するべき悲劇だ。このことを、私は母国の友人、家族、そして子孫に伝えなくてはならない
- 裸になってよかったよ
- 必ず日本に戻ってくる。次は、家族を連れて
(2) 参加者アンケート分析結果(抜粋)
①総合満足度:5段階評価4.96

②日本をまた訪問したいか:全員が訪問したい、8割近くが5年以内に訪問

③日本を家族・友人に勧めたいか:全員が勧めたい

④経済効果試算
(i) 2016年Japan Trek直接経済効果(除く航空運賃)
- 一人当たり消費金額:1,488ポンド/人(約240,000円/人)
- 参加者全体消費金額:186,005 ポンド(約30,000,000円)
(ii) 5年以内経済波及効果(除く航空運賃)
- 経済波及効果:約1,116,000 ポンド(約180,000,000円)
- 試算考慮: Trekkerによるリピート5年内訪問、Trekker紹介による5年内訪問、二次波及効果
⑤日本の観光環境改善要望:自由回答の内容上位
- 街中、店、観光地などにおける英会話
- Free WiFi環境
- 各種サイン、展示物の英語表記
- 観光に対する情報発信
- 鉄道網の検索方法
- SIMカードの販路
(3) その他の反響
奈良日日新聞(2016年4月1日号)で、Japan Trekの訪問について取り上げていただきました!
また、Trekを通して多くの参加者とOrganizerは強い絆で結ばれ、生涯の友人と呼び合える仲になれました。しかし、Londonへの帰国後、多くのOrganizerがTrekに参加しなかった同級生との関係についても、決して些細ではない変化を感じています。Organizerをクラスの一友達、Study Groupの一メンバと認識してきた同級生達が、「最高にAmazingでIncredibleな、とんでもないTrekをまとめ上げた15人のSamurai」として、一目も二目も置くようになったのです。
(4) 最後に
今回のTrekを通して得たものを挙げればきりがありません。もちろん、自分自身による日本の再発見や、日本人としてのアイデンティティの再認識といった、内なる気付きもその中に含まれます。しかし、満面の笑みで「どうやら俺は日本中毒になってしまったようだ。必ずまた日本に“戻って”くる!」と数えきれないほどの参加者に熱弁されながら、彼らを感動させることができたのだと感じて得たあの達成感は、何事にも代えられないもののように思えます。また、長きにわたるTrekの準備の過程では、「物事に真剣に取り組む姿は尊い」という価値観は万国共通であると思わせてくれる場面に、幾度となく出会うことができました。参加者に「なんでJapan Trekに来ようと思ったのか?」と尋ねると、「友達のお前がこんなに一生懸命準備しているTrekだ。行かないわけにいかないだろう」という答えが返ってきた、そんなOrganizerが大勢います。こんなこともありました。一部の参加者のとある個別の要望に応じきれなかった際、彼らが参加者全体のSNSグループで不満を投稿し始め、場が荒れる兆しが垣間見えました。ほどなくして、一人の参加者(彼も要望が通らなかった者の一人)が、あるコメントを投稿しました:「I strongly suspect if there was a better alternative, the organizers would have considered it – they put so much effort into this. The system was/is probably not perfect, but I think we should all recognize the intense effort for organizers all of this and be more understanding」。「Agree」「+1」と、次々に賛同者が名乗りを挙げ、雰囲気は一転したのです。その後も多くの参加者が、「こんな大変な企画を買って出てくれて、本当にありがとう」「お前の友人でいれて誇りに思う」「困ったことがあったらいつでも俺らに言ってくれ、どんな些細なことでも協力する」といった激励のコメントを、個別にOrganizerに寄せてくれました。Trek直前で負荷と疲れがピークに達した際に、「何としてもTrekを成功させよう」という勇気を与えてくれた一幕でした。
疑問を挟む余地無く、今回のTrekにおいて最も大きな財産となったのは、Organizerメンバ15名の間に生まれた絆であったと言えます。国籍やバックグラウンドを超えて、寝食を忘れるまで一つの物事に没頭しました。20代・30代になってからこのような経験をする機会は、そうざらにあるものでは無いように感じるのです。そして、我々が最後までTrekをやり抜けたのは、単にそれが課せられた仕事だからでもなければ毎年の慣例だからでもなく、このOrganizerで何かをすることが純粋に楽しかったからなのです。これからもこのOrganizerと様々な企画を通し、日本の文化や伝統を伝えてまいります。
これまで紹介してきたJapan Trekですが、良いことばかりでもなかったように思います。この先の生活で、これ以上の時があるのだろうかという不安も同時に与えられたからです。
最後になりますが今回のTrekの成功は、御支援頂いたスポンサー企業の方々、私達の細かい要望に応えて下さった受入れ先のホテル・旅館・レストランの皆様のおかげです。ここに改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
中でも近畿日本ツーリスト様には、予算難・ノウハウ不足に喘ぐ我々を細部に至るまでサポート頂きました。同社太田様は訪日団体旅行を幅広く手掛けてらっしゃいます。今後新たにJapan Trekの開催を検討される留学生の方等いらっしゃれば、是非ご連絡を取ってみみてはいかがでしょうか:
近畿日本ツーリスト株式会社グローバルビジネス支店
担当:太田様
TEL: +81-3-6891-9600 / FAX: +81-3-6891-9600
E-mail: dmcjapan@or.knt.co.jp
H (E. T.)
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