Bridge between
Japan and London Business School

London Business School Japan Club London Business School
Japan Club

Exchange Programme – Chicago Booth編

1. 交換留学まで

①交換留学を志した背景

MBA受験の際にLBSとChicago Booth両校からオファーを頂戴し、結果LBSに進学したものの、悩み果てた末に見送った学校に行く機会が有るなら折角だし、と思った次第です。高い買い物で買わない後悔より買う後悔、と判断するのと同じ感覚でした。

②志望校選定理由とアプライ過程

Chicago Boothは受験の段階で強く憧れが有りました。生活時間の自由度で言えばLBSに比肩する学校は無いですが、カリキュラムの自由度は随一ではないでしょうか。特に、LBS含め殆どの学校は専門性の高い授業が少ない(授業のレベルを上げると未経験者に門戸が開かれず、専門性を高めることが主眼ではないMBAに好ましくない)のですが、Boothは未経験者をガン無視して(特にファイナンス分野で)専門性の高い講義が相応に有るという印象を受けました。私は「勉強に集中したいのでMBAに行きます」という方には一旦頭を冷やすことをおすすめする(MBAに専門的な講義の深みを求めるのは再考願う)のですが、さりとて折角の学生生活、偶には真面目に机に向かうのも悪くないと思い、勉強に集中する(当社比)ためにBoothへの交換留学を決めました。3ヶ月なら悪くないと思いませんか。

因みに、交換留学先の決定は成績4割志望エッセイ6割で決まります。幸か不幸か、初秋早々から寒さの厳しいシカゴに態々行くLBS生は少ないですので、私はそこそこの成績と「受験のときLBSなかりせば進学してました」とエッセイに書いて通りました。正直さを評価されたのか、志望者が他に居なかったのか、知る術は有りません。

2. 留学先での学び

①全体として

「アメリカ人が腹の底で何を考えているか」が最大の学びでした。当然以前にも米国人との交流は有りましたが、①米国人が集団の大半を占め、②米国のルールのもと、③ビジネス的配慮の必要ない状況において、どのように米国人が考え、行動するか体感するのは、大きな人生的学びとなりました。意識・無意識の文化的コンテクストが一定のガイダンスを与える日本、欧州で遭遇する米国人と、米国内の米国人は多分に異なる様式に生きることが改めてわかりましたし、その中で尊重される“多様性”・“文化”とそこに調和を目指すマイノリティ集団の生き方、という幾年変わらない米国社会の構図に身を置いた経験は、今後も米国向けビジネスに携わる上で貴重なものでした。稀に「アメリカでは全ての国籍が平等に扱われ、社会は実力と努力を平等に評価する」と仰る方とお会いしますが、余程ご友人に恵まれたか、先方の配慮に気付かれていないかではないでしょうか。キャンパスでアジア人が銃殺され、強盗に遭い、それでもRace Inclusiveの題目は殆ど必ず”Black”で始まるのを見るにつけ、米国社会における「包摂」とは何か、教科書に載らないInclusiveとその社会的な背景には感慨深さを覚えました。米国のCBSニュースでウクライナの現状に” "This isn't Iraq or Afghanistan. This is a relatively civilized, relatively European city.”と真顔で宣うキャスター、シリアの動向には眉も揺らさぬ一方でLinkedInにはお気持ち長文を乱射する人々を見るに、世界の番犬が振るうD&Iの杖に潜む禍々しさに身の竦む思いがしました。

*美しいキャンパスでしたが銃殺・強盗など危険も多く、夜間外出は奨励されないどころか最寄り駅までUber無料クーポンが学校から出るほど。

②学業面

<受講した講義>

M&Aに絡むTax IssueやChinese Capital Marketなど、ある程度自身の興味が赴くままに講義を受講しました。Boothは究極のFlexibilityが故に人気な授業はBiddingのポイントも非常に高く、留学生に付与される点数では受講できないものも有り、且つLBSの制度的に単位が認められないものも幾つか有ったため、自身が受講したいものを全て選んだ訳では有りません。その意味で、自分が興味の有る授業は全て取りたい!という方は交換留学ではなくBoothに元から進学した方が良いと思います。もちろん、発展的な内容となる殆どの授業ではPrerequisiteとして基礎科目の複数受講が要件となりますので、Booth本科生でも最初から最後まで自身の取りたい講義を選べる訳ではありません。念の為。

<内容>

クロスボーダー含め複雑なM&Aが絡む会計・税制の事例研究は膨大な時間を要しましたが知的好奇心を擽りましたし、恒大集団を題材にした中国におけるデフォルトの扱いと市場動向は最新の情勢だけに白熱した議論になりました。特に後者に関しては英語でも情報のリソースが限られる一方で、日々躍進する中国経済に危機感とビジネスチャンスを感じて強い関心を寄せる米国人の生徒が多く、改めて「欧米の教科書」から「米中の教科書」へと意識を入れ替えきれていない自分を恥じつつ、中国経済という独自の論理で動く世界にはどのようなビジネスチャンスが眠るか、久し振りに妄想の拡がる経験をしました。一方で、パーティスクールの一翼を担うLBSからBoothに渡ると、各授業の予習負荷に忘れていた勉強への蕁麻疹が再発する寸前でしたので、受験生の方はどちらが自分に向くか、熟考して学校選びする必要があるかも知れません。

因みに、よく「講義のレベル」「教授の質」など議論に上がりますが、基本的に欧米トップMBAと世間が呼ぶ学校の間でそこに差はないと確信しました。同時期にLBSから他校に交換留学した友人、他校からBoothにきた友人とよく話をしましたが、何れも「教授及び生徒のレベルに差は殆ど無い」というのが結論でした。よく自己ブランディングの都合か「この授業はハイレベル!」「私はこんなに学びました!」と喧伝するMBA生がいますが、深堀りすると市販本の内容すら怪しい人も多いので、(もし勉強面に主眼を置き学校を選ぶ場合は)気にせず自分が学びたい内容を扱う講義が開講されている学校を選べば、ハズレは無いと個人的には思います。大多数のMBA生にとってはMBAは転職のステップであり、例えば「アントレに強い学校」に行くのはそこに通うことで得られる「起業家ネットワーク」「VC支援」のためであり、「授業がハイレベルだから」と進学先を選ぶのはナンセンスに感じます。

③Networking

ミシガン湖を吹きすさぶ寒風が遊び盛りのMBA生すら出不精にさせるのか、はたまた重い課題が彼らを机に縛り付けるのか、ネットワークの濃度はLBSと比べるとBoothは幾分か控えめに感じました。コア科目がなく選択科目のみなこと、MBA2022は昨年一年間全てがオンライン授業だったことなど、色々要因は考えましたし、もしくは本科生と交換留学生は短期間の接点のために見える風景が違う可能性も大いに有ると思います。これは見えない側がコメントするのは不公平なので差し控えます。事実のみ申し上げると、私が3ヶ月の交換留学期間において仲良くなったのは、同じく他校から交換留学でBoothに来た学生と、授業でチームを組んだ本科生、趣味のトライアスロンを通じ知り合った方々だけで、二学年1,200人の本科生の大半と(顔見知り以上には)親しくなることはありませんでした。もし私が本科生として最初から集団に居れば見方は変わった(米国の就活・イベントでより密な関係性を持つ機会が有る)と思いますし、LBSに交換留学に来ている方々を見てもLBSがネットワーキングの面で彼らに対しても開かれているとは言い切れませんので、短期間の仮住まい的立ち位置からの言及はいたしません。

否定的な話が先行してしてしまいましたが、一度仲良くなるとそこはMBA、腹を割っての本音話はキャリアから私生活に至るまでインサイトに溢れる話が多く、またNFLやNBAなどアメリカ文化は、やはり本科生のアメリカ人と一緒に行くと理解が深まり面白いです。短期間だけに膨大な人数と仲良くなることは叶いませんでしたが、LBSと異なる文化圏で新たに培った友人関係は色々なことを私に教えて下さいました。

また、面白いことに、一年目から選択科目のみなためか、授業で隣席になっただけで直ぐに仲良くなりますし、グループワークのチームも授業毎サクサク決まります。この点、LBSはコア科目で一緒だったり、バックグラウンドをよく知る友人と固まり易い傾向が有るため、この点はBoothの独特なネットワークの柔軟さの一端を感じました。これが幸いし、短い交換留学の中でも本科生と多数知り合いになることができました。

更に、Boothは総合大学の一コースですので、MBA以外からの受講者も散見されました。学部や他の院から受講する参加者は限られた他学部聴講の枠を使うだけに熱心な方が多く、MBA生とは全く異なるバックグラウンド、キャリア観から得る学びは刺激的です。これはシカゴ大学全体の日本人コミュニティにも同様のことが言え、一度ご縁とゴリ押しで交換留学生にも関わらずシカゴ大学日本人会にお邪魔させていただき、その際数学・物理などのMBAと対極の専門分野で研究に携わる方々から、非常に平易な表現で研究の内容について教えていただき、大いに知的刺激を受けることができました。因みに、理論物理から宇宙の始まりを研究する話に私は特に心打たれたのですが、一方「一攫千金・高額時給など露骨に怪しいスパムメールは、それを怪しく感じない層を炙り出す研究されたマーケティングの結果である」という飲み会的MBA研究を披露する私に何か知的好奇心揺さぶられるものがあったか、果たして張り付いた愛想笑いの一枚裏は窺い知れませんでした。

*あまりにも多くの人と交流したため写真掲載許可の取得が難しく、結果こうなりました。仲の良い雰囲気だけでも伝われば。

3. 交換留学を経て気づいたLBSの魅力

米国・欧州で文化が異なり、BoothとLBSも必然的に多くの点で異なっていました。当然個々人の嗜好で好き嫌いが有りますが、改めてLBSの魅力だと個人的に感じたものを2つ挙げてみます。

① コミュニティの多様性

総合大学としてのコミュニティの多様性を上述したばかりですが、一方で通常のMBA生が受動的に触れる人間の多様性という意味では、Boothは米国人主体且つバックグラウンド・進学先も伝統的MBAの装いを強く感じました。一方LBSは徹底的な多様性を謳っており、事実バックグラウンドの分散はBoothに比べ大きく、MBAで過ごすと否が応でも多様性を理解し、その中で協働することが強く求められます。

② 時間の自由度

良くも悪くもLBSは「机で勉強すること」を最優先には求めない学校だと感じます。特にMBA生活ではインターンはじめ課外活動で兎に角時間が不足するだけに、勉強面に時間を過大に取られないことは、多くの点でメリットになると思います。当然、自由度が高まる分更に自分の勉強を深掘りするのも学生の裁量で可能ですし、柔軟な生活設計が可能になる配慮が為されています。但し、クラスメイト全員に勉強へのコミットを求めたい方には、LBSの自由さに歯痒い思いをする可能性もありますので、そこは一長一短だと思います。

当然、Boothに居る中でLBSに無い良さも多数感じましたので、返す返す両校のどちらが良いかは個々人の嗜好に依る部分が大きいです。そうは言いつつ、一度LBSを離れ改めて振り返ると、私はLBSの環境から強く恩恵を受けていたことを痛感しました。

4. 留意点 (費用、手続き等で考慮すべきこと)

文字通り留学のためLBSを離れることのプロコンは丁寧に整理する必要があります。特にフルタイムの就職活動が必要な方にとって、慌ただしく慣れない米国新生活と膨大な就職活動のタスクを並行して完璧にこなすのは非常に難しいです。更には、ご家庭が有る方にはご家族の生活をどうするかも重要な懸案事項だと思います。MBA受験と同程度に、3ヶ月交換留学に費やすことで逃すものを十分考慮し、その交換留学で目指すものが本当に交換留学によってしか達成出来ないか丁寧に検討することが不可欠です。

一方、コスト面のみをネックとして見送る判断をするのは勿体なく感じます。友人らの話を総合して、最大でも2万ドルあれば十分に交換留学に付随する全ての体験を満喫出来ると感じます。安くない出費ですが、一方で上限2万ドルがMBAの膨大な出費に比して致命的増額とは思えず、且つ(交換留学の意義を熟慮し選択した結果)得られる体験を想像するにその費用対効果は十二分と断言出来ます。要は経験を買いに行く訳であり、その経験に対しサンクコスト踏まえ十分ペイを見込むのであれば、実費が影響するファクターは小さいと個人的には感じます。

この記事の読者層を拝察するに、殆どの方がLBSを進学先として選ぶかどうかの方であり、こうした交換留学の体験を読んで「よしLBSに行こう」となる方は少ないのではないかと思います。私自身、受験生としてこの記事を読んでも「そうかBoothも良い学校なのか」が関の山な感想だと思います。そうではありながら、今交換留学を経て考えると、交換留学の選択肢が豊富なことそれ自体がLBSの価値として十分評価されるべきものだと確信します。2年間のMBAプログラムを一箇所で終えることを全く否定しませんが、もし進学先選定に際して一校に絞れない状況で、且つLBSの志望度も相応に高いのであれば、別の候補先を交換留学先に設定してLBSをメイン進学先とするMBA生活の設計も十分検討に値すると、個人的にはおすすめしたいところです。あくまでもLBSの提供する豊富な経験の一要素をお伝えするに過ぎませんが、同時期に交換留学した他の方の記事も合わせてご覧いただき、LBSへの進学をより多角的にご検討いただければ幸甚です。

一覧画面へー戻る