GBE滞在記‐インド編 ”Harnessing the Winds of Change”

GBE, 授業, MBAカリキュラム

今回は、2年生のカリキュラムの目玉ともいえるGBE(Global Business Experience)の中から、私の参加したインドのプログラムの内容をお届けします。

テーマ

世界で最も高い率で経済成長を遂げている国の一つであるインドですが、貧富の差やジェンダーギャップ、公衆衛生環境等、様々な問題を抱えています。近年は、スマホが農村部で急速に普及し、また、2013年の法改正(一定規模以上の企業は最低1人の女性取締役を置く)に象徴されるように、女性の社会進出も都市部を中心として進み始めており、インドは我々の想像以上に急速な変化の真っただ中にいます。

インドGBEのテーマは、”Harnessing the Winds of Change”。風荒ぶ大海の上に浮かぶ帆船は、風に逆らって進むことは到底不可能。如何にして、国、社会、企業、家族、自己といった「船」の舵を如何にうまく取りながら、変化という「風」を帆に受けて、船を目的地に導いていくか。変化の途上にある大国インドの現状を目の当たりにし、如何にして急速に変化していく世界に我々が対峙していかなければいけないかを深く考えさせられました。

 

アサインメント

生徒に与えられた課題は、「社会的企業 Dharma Life(http://dharmalife.in/)がどのようにして、より大きなSocial Impactをサステナブルな形で実現できるかを提言する」でした。GBEにおいても、国籍等の異なる5-6名のグループで上記課題に取り組みました。

Dharma Life(DL)は、LBSのアラムナイを中心に設立されたインドの社会的企業であり、「栄養状態や公衆衛生面の改善」、「男女格差是正」、「ネットリテラシーの向上等」、「有害物質を出さないクリーンエネルギーの普及」の4つの大きな課題領域において、Dharma Life Entrepreneurs (DLEs)という農村地域の女性事業家のビジネス・活動を支援することで、農村部を中心としたインドの諸問題の解決・改善を目指しています。

具体的には、①農村部でDLの定めたクライテリアに合う女性を選定し、DLEに就任してもらう、②インドの抱える諸問題に関する講義や、パブリックスピーキング、セールス、経理等から成るトレーニングセッションをDLE及びその家族に受講してもらう、③DLEは、DL社員のサポートを受けながら、社会的問題に関する啓もう活動(学校での手洗い推進活動、女性向けのサニタリー用品や家族計画に関する啓もう等)やDLの目的に適った商品のセールス活動(IH調理器や光電池ランタンの販売)等に従事、というステップを踏み、DLEsを通じて農村地域を変えていこうとしています。

(補足:農村部ではかまどを使って料理をする家庭が多く、女性は木や家庭ごみを使って火をおこします。しかし、CO2発生に加え、子供が火傷をする事故が発生したり、プラスチックごみを燃やすことによる有害物質発生によって家にいることの多い子供や女性に健康被害が出たりする等が問題となっています。IH調理器普及により、かまどを使う頻度を減らすことが、大気汚染を防ぐことにつながります。)

GBE期間中は、DLの創業者や社員からの講演のみならず、実際に農村で活動するDLEsの活動や生活を見学する機会を与えてもらえました。DLからのインプットや実際のDLEsの活動実態を踏まえ、DLの抱える課題を特定し、その解決方法を考え、最終日にチームごとにDL創業者と教授陣の前でプレゼンをしました。

DLの課題を考えることは、まさしくインドの持つ諸問題についても考えることにもなりますし、加えて、セールス活動の分析には、StrategyやMarketing、Financeの側面、社会的問題の啓もう活動の分析には、いかにして農村部の人々の行動を変えるかというOrganizational Behaviourの側面もあり、今までLBSで学んできたことをフル活用するような内容となっていました。

 

スケジュール

  • 12/8 (日): ウダイプル集合、Welcome briefing
  • 12/9 (月): DL創業者講演、農村部でDLEの活動(学校での手洗い啓もう、路上でのIH調理器実演販売)や生活を見学、DL主催の夜の子供ダンス大会見学(DLEが販売する光電池ランタンを照明として用いる、広告活動の一種。子供のSelf-confidence向上も企図。)
  • 12/10(火): 農村部でDLEの活動や生活を見学、DL主催のIH調理器クッキングコンペ見学(DLEが販売しているIH調理器の広告活動)、ムンバイに飛行機で移動
  • 12/11(水): 現地ビジネススクールDeanの講演、DL社員の講演、個別企業訪問、Street Foodツアー(希望者のみ)
  • 12/12(木): Bike Tour(希望者のみ)、NPO:Educate GirlsのChief of Staff講演、DL社員とのQ&Aセッション、Dharavi(スラム街)見学ツアー、プレゼン準備を深夜まで
  • 12/13(金): Moelis & Company (ブティック投資銀行) India CEO講演(Business Todayの“25 Most Powerful Women in Business in India” に過去6年選出されるとともにFortune Indiaの“50 Most Powerful Women in Business” に2014、2015の2年連続選出)、プレゼン発表、Wrap Up、クロージングパーティ、アフタークロージングパーティ、アフターアフタークロージ(以下略)
  • 12/14(土):  解散

 

インドでの体験

GBEは、まさに未体験の国・地域の深部を「体験」する、稀有な機会です。スマホやネットが普及し、各地の情報に簡単にアクセスできる世の中ではありますが、現地に行って五感をフルに使って「体験」するからこそ、心動かされ、脳に刻まれるのだと再認識しました。

以下、私が「体験」した複数のインドを若干冗長ながら書き留めさせていただきます。

フレンドリーな人柄:農村でDLEの家庭を訪問した際は、額にティーカ(赤いペイント)を塗ってもらい、歓迎を受けました。農村の子供たちは、フレンドリーで、外国人が物珍しいのか、我々が学校を訪問した際には、まるで我々をハリウッドセレブ(?)と勘違いしているかのように握手や写真を求めてきました。スラムに生きる子供たちも人懐っこく、農村の子供たちと変わらない明るさを持ち合わせていたことに一筋の希望が見えました。

農村部の慣習と男女格差:農村部では、古い慣習が根強く残っており、女性は義父と直接話すことはできず、また、顔を義父に見せてはいけないため、ベールで顔を隠します。女性が家の外にめったに出ない農村部において、啓もう活動やセールス活動を行うDLEsの方々は、比較的先進的な女性であり、その家族もそれを受け入れる素地のある方々ではありますが、我々と話している最中に、義父が帰宅してきた途端にDLEの方がとっさにベールで顔を隠すのを目の当たりにしました。斯かる慣習が残る社会で、女性の地位向上を図ることがいかにチャレンジングかは、想像に難くありません。

一方、男女別に農村の方々と「サニタリー用品普及」「家族計画」等の問題を議論する時間がありました。農村の青年男性陣(注:筆者は男なので男性陣同士のディスカッションに参加)は、シャイなのか、最初は口を閉ざしていましたが、「自分たちの国でも斯かる話題については、男女間でタブーな面もあるが、少なくとも同性間ではオープンに話せるはず」といった自己開示を私のグループのベルギー人がしたところ、農村の方からも発言が出るようになりました。女性の社会進出等についても問うたところ、彼らからは「時代が変化しているのは理解しているし、それを受け入れるつもり」といった発言もあり、変化に「Resist」ではなく「Accept」だという点には、想像以上に農村部が変化に対して柔軟なのだというポジティブな印象を受けました。

「安全」なスラム: Dharaviで働く労働者の多くは、農村から出稼ぎのために年10か月ほどDharaviで働き、子供の教育のために仕送りをしているのだそう。スラムですから、衛生環境や労働環境は劣悪ですが、犯罪等はさほど多くなく、我々も怖い思いは全くしませんでした。彼らが子供の未来のために高い教育を受けさせたいという思いが故、スラムで働いているのであって、都市で生活したい等の私欲のためではないということの示唆でしょう。

暑さとにおい: 12月でも、ムンバイは気温30度台で蒸し暑いです。農村では牛を飼っている家庭もあり、家畜のにおいが少しする中、DLEの方々のお話を聞く場面もありました。スラムも、汗やヘドロ、糞尿のにおいがすることもあり、さらには、いかにも有害そうな化学的なにおいがする中、プラスチックのリサイクルに従事する方がマスク無しでプラスチック容器の粉砕をしており、劣悪な労働環境を目の当たりにしました。

 

むすびに代えて一日本人の働き方や家族の在り方

私がDLEの方に「ビジネスに取り組む分、家事・育児はどのように対処しているのか」聞いたところ、「娘に手伝ってもらっているが、嫁に出した後は分からない」との回答があり、比較的柔軟性のあるDLEの家庭でも、まだ家事・育児は女性が担うものという意識が男女ともに根強くあるようでした。先に、男性は、女性の社会進出等の変化を「Accept」しつつあると記しましたが、まだ自身でその変化に「Involve」するとの考えには至っていないようです。

働き方改革で、日本では以前のような非人間的(?)長時間労働が是とされなくなった中、時間の減少を補うためには、①現在の働き手を増やす、②将来の働き手を増やす(=出生率を上げる)、③生産性を上げる、の3つの施策があるかと思います。働く女性、特に子供を持つ・もうけたいと考える女性のキャリアの中断を防ぎ、復帰する際のハードルを低くすることは、①や②に直結するため、それらを推進することは日本にとって重要課題の一つでしょう。

程度の差はあるものの、ジェンダーギャップはどの国にも存在しており、日本については、女性の労働への貢献率が欧米先進国対比で低い等、改善の余地があることは否定できないかと思います。

男女ともにキャリアを継続する社会に到達すべく、女性の一層の活躍とそれをサポートしようという社会の流れを追い風にしていけるのか。(自戒も込めてですが)男性の立場として、ただ風向きを見ているだけでは、変化を受容するインドの青年と変わらないとも言えます。男女ともに船の帆を張り、舵を取ろうとした時に初めて、変化の船足が早まるのかもしれません。