海外MBAで学ぶ意義: なぜMBAは批判されるのか?

「MBA卒のくせに使えない」
「MBAに行くヒマが有ったら仕事を続けた方が勉強になる」

日本では、こんな「MBA不要論」を時折耳にする。斯く言う私も、留学を志す前はMBAに対し懐疑的な一人であった。然し、実際にLBSで2年間MBAを学んでみると、MBA不要論とはMBA教育への理解不足と誤解から生じる不毛な議論であり、この誤解が解消すればMBAが日本でも正しく活用され得ると感じるようになった。

そこで今回は、LBSでの留学生活を踏まえて、
「MBA教育とはそもそも何なのか」
「なぜMBAは日本で誤解され、批判されているのか」
について、私なりの考えを述べてみたい。

 

MBA教育とは何なのか

MBAが誤解されやすい原因は、授業の形式と目的が他の大学院と大きく異なる為、傍から見て実態や効果が分かり辛いことにある。

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MBAの授業は「ケースメソッド」という独特の形式を採っている。ある企業の過去事例を物語調にまとめたものをケースと言い、その主人公は経営課題に直面したCEOである場合が多い。MBAでは金融・戦略・統計など様々な科目が有るが、どの科目のケースでも問われる重要命題はただ一つ。

「もし自分が経営者ならどうしたか?」

学生は、自分がもし経営者であったなら、如何に状況を分析し、戦略を策定し、実行したかを徹底的に考え抜き、仮説を持った上で授業に参加する。科目の違いは、仮説に至るまでのアプローチが異なるだけで、ファイナンスの授業ではマルチプル法、ストラテジーではポーターのファイブフォース分析等を用いて、自らの仮説で周りを説得する上での理論武装を行う。

このケースメソッドの目的は、リーダーとしての「決断力」を鍛えることにある。授業ではレクチャーの時間は最小限に抑えて只管にクラス内ディスカッションを行い、異なるバックグラウンド持つクラスメートと意見を戦わせて、自らの仮説を様々な視座から検証する。この一連のプロセスを、2年間で様々な分野に於ける数百通りのケースを使って徹底的に繰り返し、限られた情報と時間の中で経営者として最適の決断を下すための思考プロセスと判断基準とを、筋トレのように身に付けていくのである。

日本では学校とは知識を得る場所との意識が強いが、MBAに於いてハードスキルとはケースを解く上でのツールに過ぎず、知識の深堀りは重要視されていない為、通常の大学院のようなアカデミックな雰囲気のレクチャーはあまり行われていない。経営判断に普遍的な正解は無いためMBAでの議論は喧々諤々と毎回白熱し、教室内は学び舎というよりもブートキャンプに近い状態となる。

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「何を学ぶか」ではなく「誰と学ぶか」

上記のようなケースメソッドに於いては、ハードスキルとして「何を学ぶか」ではなく、ディベートの相手として「誰と学ぶか」が極めて重要となる。巷に溢れるMBA本でいくら戦略ツールを学んでも、それは玩具の武器を得たに過ぎず意味は薄い。その武器を手に、実際に訓練所で百戦錬磨の将官(教授)の指揮の元、バラエティー溢れる優秀な戦友(クラスメート)と実地訓練(ディベート)を繰り返すことでMBAからの学びは初めて最大化される。class

このプロセスのみが重要なのであって、MBAという資格自体に価値は無い。海外MBAは自己研鑽や国内MBA対比で膨大な時間やコスト、機会費用が掛かるが、それでも敢えて海外のトップ校を志向する理由は、多様で優秀な教授とクラスメートの存在こそがMBAでのトレーニングに於いて極めて重要となるからである。

 

 

ハードスキル習得はMBAの主目的ではない

一方で、MBAに於いて然程重要でないテイクアウェイは、「ハードスキル」である。MBAでは、金融、会計、戦略論、統計学、マーケティング、アントレプレナーシップ等、非常に幅広い分野を学ぶため、僅か2年でこれらの分野を全て実務レベルへ引き上げるのは無理であるし、そもそも既述の通りMBAに於いて知識の深堀りは重要視されていない。

誤解の無いように申し上げると、ケースに基づくプラクティカルな実例を一線の教授から学ぶことで、広範で実務的な知識が身に付くことは確かである。然し、膨大な時間と費用をかけて海外MBAに行く以上は、機会費用の考え方に基づいて、「そのスキルは海外MBAでなければ本当に身に付けられないものか?」という問いを常に考える必要が有る。この見地に立つと、MBAで得られるハードスキルは日本での自己研鑽でも充分得られるし、寧ろ仕事を続けて実務とリンクさせながら学習した方が、より効果的に知識を定着できるはずである。

 まとめると、会計・金融・統計学といったハードスキルは、MBAで学ぶメリットの一つであることは確かなものの、敢えて時間と費用をかけて海外MBAを目指すべき積極的な理由とは成り得ないと考える。

 

なぜ「MBA不要論」が生まれるのか?

以上に述べてきたMBAのメリット・デメリットを踏まえると、世間でよく耳にするような「MBA不要論」が、MBAという教育への理解不足と、MBAホルダーと採用企業側のミスマッチから生じる不毛な議論であることが見えてくる。

日本では、「学校とは知識を得る場所」というイメージが強い為、MBAホルダーに対して全知全能のハードスキルを求め、会計やファイナンス、戦略企画等のあらゆる分野で即戦力となる人材を期待している場合が多い。然し、MBAで得られるハードスキルは限定的であり、そもそも目的ではなく手段に過ぎないので、その不足をもって「MBAホルダーは使えない」と判断することは的外れである。

また、「MBAに行くよりも仕事を続けた方が勉強になる」という指摘も良くあるが、MBAの目的をハードスキルの習得だけにフォーカスすれば、仕事を続けて実務とリンクさせながら学んだ方が効率的且つ実践的なのは当然であるものの、そもそもハードスキルはMBA教育の主目的ではないので、この比較は意味が薄い。

MBAホルダー側にも大いに問題が有り、ハードスキルや「MBA卒」というステータスのみを求めてMBA本や通信制MBAに手を出しても、軍隊訓練型のケースメソッドをこなさなければ意味が無く、通信教育で空手を学ぶ程度の効果しかない。従って、それではMBAを通じて成長できないのは当然であるし、そのくせに自分は即戦力であると自惚れると、周囲からの失笑と反感を買うだけだろう。

他方、MBAの真の目的である「決断力」にフォーカスした場合も、日本企業ではミスマッチが生じている。海外企業の場合、MBA卒は早期にマネージャーとしてのディシジョンメイキングが期待される。然し、日本企業では卒業後も当面はプレーヤーとしての役割が求められることが多く、マネージャーになるまで10年以上かかるケースも有る。MBAは決断力を鍛える場なのに、そのポジションを与えなければスキルが生かせないのだから、「MBA卒は使えない」との評価が下るのも当然である。

 

おわりに

最後に幾つか補足を。

上記に加え、異文化理解や国際人脈の深まりも海外MBAで学ぶことの大きなメリットである。然しこれらは海外留学に共通するものであって、MBA固有の事項ではないことから今回は割愛させて頂いた。

また、MBAは「リーダーとしての決断力」を鍛える場と書いてきたが、海外MBA卒が皆すべて決断力に優れているわけではない。所詮、MBAは訓練であって実戦では無いので、いくら練習を積んでも本番でのパフォーマンスは保証されないし(練習をたくさんしたからといってプロ野球選手になれるとは限らないのと同じ)、リーマンショックやエンロン破綻はMBA卒の強欲な経営者達が起こしてきたことを鑑みれば、歴史的には寧ろマイナスの影響の方が大きかったかもしれない。然し、少なくとも「決断の訓練をしなければ本番で成功できない」ことだけは確実に真なので、たとえ結果が保証されていなくとも、欧米のエグゼティブは皆MBAでディシジョンメイキングの鍛錬を積むのである。

MBAは、斯かるトレーニングの場としてケースメソッドという手法を確立し、時代に合わせてケースのテーマを柔軟に変更しつつ、過去の失敗を踏まえて企業倫理の科目を増やすなど、試行錯誤を重ねて今の形となっている。外から見ると効果や実態が漠としていて見え辛いため、誤解や批判を受け易い学問領域なのだとは思うが、上記の誤解やミスマッチが解消されれば、MBAに行ってから後悔する人や、MBA卒を採用してから後悔する企業の数は確実に減るだろう。MBAへの進学や採用を迷っている方に、本稿が少しでもお役に立てば幸いである。

MBA2015 A.S

MBAに来ることの意義 2

MBAに来ることの意義とは何か。

 

緊張と不安が入り混じった入学式から時が経つのは早い。卒業まで残された時間も残りわずかだ。

新たな職場に胸を躍らせる友人に手を振る日々の中、少し苦いコーヒーを飲みながらその問いがぼんやりと頭をかすめる。

 

小難しいことはやめてみよう。

 

まずは、そうだ。いろんな国出身の、いろんな国で働くであろう友人が多くできた。彼らの国にいつか行ってみたい、もしかしたら仕事でお世話になることもあるかもしれない。Study Groupのメンバー、必修・選択科目のクラスメイト、Tripでお世話した・お世話になった生徒、サマーインターンの同僚、フラットメイト。

MBAが始まった頃は、正直何を話してるのかわからないときもたびたびあった。今ではずいぶんとマシになったものだ。ということは英語も上達したんだろう。いろんな国を知ることで、日本のことをポジティブに見直す気持ちを持つこともできた。

 

わかりやすい。確かな結果だ。

 

あとは・・・学業の中身か。これは整理が難しい。何をもってして、学んだ・得たと言えるのだろう。とか考えると、面倒臭い。そういうのは後回しだ。

カリキュラムは大きく、財務・会計・戦略・マーケティング・オペレーション・組織行動・起業みたいな感じだっただろうか。

財務・会計・オペレーションは手堅い。数字を使って過去・現在・未来の活動を理解・記述する手法や考え方が多少増えた。

戦略・マーケティングあたりは、正直特筆する感じでもない。MBAを卒業した人がどういうフレームワークを気にするかを学んだと言えば学んだ。

組織行動。授業だけではぴんとこない。ただ、知的好奇心を刺激するには自分には合っていた。いや、それだけでもない。昔携わった組織設計やChange Managementの仕事を振り返ってみると、思い当たるフシは結構あったか。

起業については、昔よりも興味は出た。けど、「いま自分がこれを始めたい」と思うほどの情熱・ネタがないこともはっきりした。

 

インプットの話が多い。アウトプットはどうか。そう、発言や行動の部分だ。例えば、企業を分析するときに財務・会計的な観点で考えたり意見する機会は増えたような気がする。

発言、という意味ではその回数も増えたかもしれない。例えば、英語のディスカッションでぐだぐだと遠回りな議論をしている最中、ホワイトボードを使って整理したりするのは気持ち良かった。下手な英語を辛抱強く聞いてくれる前提だったが。

MBAも後半になれば、グループワークの作業設計や役割分担、進捗管理なんかも積極的にやるようになった。各人の性格、得意・不得意を考えるのが私は好きなのだろう。あ、リーダーシップという言葉が浮かんだ。話がややこしくなるから、このへんの整理は他の人に任せることにしよう。

 

仕事という観点では、卒業後にやることが特段変わる予定もないな。

 

 

普通だ。とても普通だ。海外の多くの友人、ということを除けば、MBAでなければ得られない、ということは特段ない。仕事をしながらでも、時間をかければ何とかなる話だ。その時間を圧縮したという点に価値があるのだろうか。しかし、突然変異でも何でもない。問題意識も、得た知識も、行動の変化も、これまでの延長線上にある。

いや、MBAを取得しない人生は生きていないのだから、比較すること自体がナンセンスなのだろうか。ただ、これも言い訳がましい気がする。

 

なんなんだろう。

 

そうか。

そもそも、この問いにいま答えようとすること自体が的外れなのだ。

私はまだ何もしていない。検証は、5年後、10年後、30年後でいい。MBA取得に意義があったかどうかは、これから何をするかで変わるのだと信じよう。

 

幾台もの車が目の前を通り過ぎていく。

飲みかけのコーヒーはすっかり冷めてしまった。

私は少し考えるふりをした後、もう一杯おかわりすることにした。

 

MBA2014 T. T

ロンドンにまつわる二つの誤解(天気と食事)

「天気悪いんでしょ??」&「ご飯マズいんだってね」

9ヶ月前に日本でロンドンへの赴任の挨拶周りをしていた時、たくさんの方からこの憐憫の言葉を頂きました。私もそうでしたが、「ロンドン=天気と食事が最悪」というのは、多くの日本人が思い描く強いイメージのご様子。

然し、実際に住んでみて思うのは、「それ、ちょっと誤解です!!」ということ。天気も食事も思っていたほど悪くないどころか、良いところもたくさん有ります。その理由を、『8つの事実』でご説明します。

 

まずは「天気」のお話。

 

事実①:「ロンドンの降水量は、東京よりもずっと少ない」

確かに雨の降る日は多いですが一日中降ることは稀で、ザッっと降っても直ぐに晴れたり、長く降るにせよ霧雨程度のことが多いです。日本と違って梅雨や台風が無く、夏場の集中豪雨も無い為、年間の降水量で見ると実は東京の3分の1程度しかありません。

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 (出典:気象庁(1981年 – 2010年)及びMet Office “Climate averages 1971-2000″データを元に筆者作成)

 

事実②:「真冬の気温は、東京とほぼ同じ」

ロンドンの緯度は北緯51度。札幌の北緯43度を大きく越えて、樺太中部と同じくらい北に位置します。然し、真冬でも気温が氷点下に下がることは少なく、最低気温は0~5度、最高気温は5度~10度程度。東京の冬と然程変わりません(但し、寒い期間がずっと続くので、コートが必要な期間は長いです)。

ヨーロッパの西岸には暖流の北大西洋海流が流れており、大西洋上の偏西風が常に海流上の暖気を運んでくれることから、ロンドンのように海に近い地方は然程寒くならないんだそうで、パリやベルリンなどの内陸部よりも温暖な冬が過ごせます。

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 (出典:同上)

 

事実③:「夏場は最高!!」

緯度が高いので、6月ともなると22時位まで明るく、テムズ川沿いのパブで太陽を浴びながら遅くまでビールを楽しんだり、仕事帰りにテニスやゴルフに興じる人も多いです。夏場は30度以上まで上がる日も有りますが、湿度は低く日本のような蒸し暑さは全く無いので、日蔭に入れば快適に過ごすことができます。

 

事実④:「でも、日照時間はやっぱり少ない。。。」

と、良いことばかりを書いてきましたが、やはりイマイチな点も有ります。その最たるものが「日照時間の少なさ」でしょう。統計によると、東京の年間日照時間は平均1,900時間程度なのに対し、ロンドンは1,500時間程度しかありません。

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 (出典:同上)

上のグラフの通り、特に11月から3月上旬にかけての日照量がヒドいです。12月ともなると8時~16時位までしか昼間がなく、太陽も「君、ヤル気ある??」と問い詰めたくなるほどにしか上がりません。

しかし、この暗い冬の見返りに上述の最高の夏が有るわけで、プラマイはゼロです(適当)。どうしても太陽が恋しくなったら、週末を利用して地中海沿いのリゾート地へ繰り出して心も体もリフレッシュできます。格安航空を使えば、片道2時間のフライトで往復100ポンド程度です。

 

続いて、もう一つの大きな誤解であるロンドンの「食事」について。

 

事実⑤:「イギリス料理だって、美味しいものも有る!!」

例えば、悪名高きフィッシュ&チップス。確かに、道端の露店なぞで買うとベタっとしたマズいものが出てきます。しかし、学校の近くに有るSeashellという店はいつも地元の人でにぎわっており、新鮮なタラを使用したアッサリとしたフィッシュ&チップスを味わうことができます。その他の料理も全て美味しく、私はこの店でイギリス料理に対するイメージが変わりました。

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事実⑥:「レストランのレベルは非常に高い!!」

世界中から人の集まるロンドンは、レストランの種類も非常に多様で、且つレベルも高いです。特に、歴史的な繋がりからインド料理の質は日本より圧倒的に高いですし、街の中心部には大きな中華街もあります。値段は張りますが美味しい和食屋も有りますし、日本ではなかなか味わえないレバノン料理や中央アジア料理なども満喫できます。

為替の影響もあって、ディナーともなると一人/5,000円~15,000円程度掛かってしまうのが痛いですが、質とバラエティに関してはロンドンのレストランは世界有数の水準だと思います。

 

事実⑦:「食材の質は高い!!」

ロンドンでは新鮮な食材が手頃な値段で手に入ります。日本と比べると、霜降り牛肉や魚のバラエティの点では物足りなく感じることも有りますが、貝類やチーズ、ワインなどは日本よりもずっと安くて良質の物が手に入りますし、野菜も種類が豊富で新鮮です。また、日本食材店も数多く有りますので、食材の確保の点で不自由を感じることはあまり有りません(但し、原材料に近いうちは良いのですが、少しでも人の手が入るともうダメで、パスタソースやソーセージなどですら不味くしてしまう食品メーカーには殺意を感じることはしばしば有ります)。

 

事実⑧:「でも、安くて美味い店は無い。。。」

では、イギリスの食事で何がマズイか??というと、日本のように「安くて美味い!」を実現しているレストランやコンビ二というものが全く有りません。

学校で売られている寿司のシャリは消しゴムの味しかしませんし、街中の不便なコンビニ(日本語が崩壊してますが。。。)のサンドウィッチは、一口食べただけで思わず笑ってしまうほどマズいです。

レストランは上述の通り美味しいところもたくさん有りますが、下調べせずに通りすがりの店に入るとハズレが多いのも事実なので、観光客の方々が英国料理にマズい印象を持つのは已むを得ないと思います。

 

以上を踏まえると、やはり日本人の舌に一番合うのは日本の食生活なんでしょうけれども、ロンドンでも「手間」か「お金」を掛けて自炊や美味しいレストラン探しに励めば、充分に満足の行く食生活が送れます。

 

最後に

一つ注釈を加えると、ロンドンとイギリスは違います。ロンドンはイギリスの中でも特に雨の少なく暖かい地方で、ウェールズやマンチェスター等はロンドンよりもずっと多くの雨が降ります。地方に行くと、美味しいレストランも減ってきますので、「イギリス=天気が悪くてメシが不味い」というのは、強ち間違いでは無いと思います。

然し、繰り返しになりますがロンドンの「天気」と「食事」は、それほど悪くありません。加えて、治安の良さや、英語圏であること、ミュージカルや博物館など文化面の充実、格安なヨーロッパ旅行や街並みの美しさなどを考えると、個人的には東京での生活よりも、今のロンドンでの暮らしの方がすっかり気に入っています。

最後は、使い古された引用では有りますが、イギリスの文学者サミュエル・ジョンソンの名言を:「ロンドンに飽きた者は人生に飽きた者だ。ロンドンには人生が与え得るもの全てがあるから」。この言葉、大いに賛成です。

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MBA2015 A.S.

多様性の本当の意味

「多様性が当校の特徴。多様性に富んだ学生/教師と共にMBAを学ぶことであなたの学びが最大化される」

MBAを目指す多くの方が、「この学校の特徴は何ですか?」という質問に対する答えとして、上のようなものに出会うことがあると思う。

 

もしかしたら、何人かの方は「そうか、多様性があるから、学びが最大化されるんだな。なるほど!」となるかもしれない。しかし、多くの方にとっては、「はて、何で多様性があると学びが最大化されるのかしら?そもそも何が多様性?」となるように思う。私自身も、Essayの中で、LBSを選ぶ理由として多様性を挙げたが、どこか釈然としていなかった。

 

しかし、1年半MBAで学ぶ中で、その意味がようやく腹に落ちつつある。これは、2013年の夏の説明会でも、紹介させて頂いたテーマだが、もう少し具体的・個人的な経験を基に、多様性とは何なのか、そして、多様性での学びがMBAを学ぶ学生にとって、なぜ有用なのか?をご紹介したいと思う。

 

そもそも、多様性とは何か?定義は色々あるだろう。私が、LBSで学ぶ中で重要だと感じた多様性を3つ紹介したい。

 

1. ビジネスバックグラウンド

MBAで学ぶ前までに、どのようなビジネスの経験があるのか?というのはLBSで顕著な多様性の一つだと思う。世界中で実に様々な経験をした人が集まってきている。コンサル、F1のメカニック、インベストメントバンカー、映画製作プロデューサー、中央銀行の役人。

 

では、こういった人に囲まれていると何がいいんだろうか?

「ディスカッションに色々な視点が入り、面白い議論が展開されるから学びがある」「授業で扱うケースについて、直接的な経験を持つ人がいて学びがある」

こういうことも聞くだろう。まだ抽象的だ。そこで、私が直接経験したエピソードを3つ紹介したい。

 

私のスタディグループに、オーストラリア人でアメリカの大学を卒業し、イギリスで弁護士をしている女性がいた。彼女はネイティブである上に、弁護士という職業柄、非常に言葉が洗練されている。ステディグループでレポートを書いていた時のことだ。私の割り当て分を書き上げ、全体を取りまとめていた彼女に送った。彼女いわく、「タイポとかちょっと直しておいた」とのことだが、最終的に提出されたレポートを見ると、私や他のメンバーの多くのパートが書き直されていた。最初は、私の英語が不十分だったか。。。。とうなだれたが、よくよく見てみると、文法的な間違いだけではなく、より正確で、短い単語や言い回しに変えられていたことに気づいた。彼女の書く英語を見ることで、簡潔で意味を取り違えない、曖昧でない英語表現のストックを増やすことができたのは、私の貴重な学びだった。

 

私がビジネスケースコンペティションに参加していた時のことだが、最終的なパワーポイントのプレゼンを作成している際、あるデータを表にして盛り込もうとしていた。そのデータは、各国での市場規模と成長率、市場での自社のシェアだ。私は、コンサルタントとしての経験から、即座にバブルチャート(2軸のグラフにバブルが置いてあるもの)がよいと思い、それを入れ込んだ。そこで、中国人のチームメイトが「これすごくいいね」と言って、なぜこのグラフなのか、どうしてこれを思いついたのか?等詳しく聞いてきた。彼女からすると、このデータをこのグラフにする、ということが自然なことではなく、彼女にとっての学びだったのだろう(ちなみに彼女はコンサルタントとして働く予定だ)

 

これまた私のスタディグループの話だが、インド系イギリス人の彼は、ヘッジファンドで働いていた。インベストメントバンクやファンド、PE出身の人には共通するが、非常に綺麗なエクセルを短時間で作成する。私もコンサルタントとしてエクセルにはそれなりになじみがあるが、彼のエクセルは、使いやすさや見易さという点で非常に学ぶところがあった。また、コンサルタントの作るエクセルとの構造や作り方の違いも面白い発見であった。

 

2.カルチャーバックグラウンド

各学生が様々な文化の中で育ってきたこともLBSや欧州MBAの特徴だろう。Nationalityについて、USのトップスクールとLBSの比較をしたのが、下記のグラフだ。LBSでは、Nationalityという意味合いで、Majorityは存在しない。まさに世界中の人の集まりなのだ。

 

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では、これだけ出身国が異なる人たちに囲まれていると何がいいのだろうか?

私が感じるベネフィットは「学校のカルチャーイベントで色んな国の伝統料理や出し物を楽しむことができる」というような表面的なものではない(LBSにも勿論、Tattooというカルチャーイベントはある)。これも、より具体的に紹介しよう。

 

あくまで、私の極めて個人的な将来に関する話となるが、私は、将来は教育に関する仕事をしたいと思っている。社会人教育というよりも、中高大での教育だ。それが故に、LBSの友人たちがどんな教育を受けてきたのか?ということに興味があり、よくそういう話をする。

例えば、デンマークでは14歳まで試験が一切行われない。フィードバックはあるが、グレーディングされないそうだ。ここまでは知っていた。実際にその教育を受けてどう思うか?という質問をすると、いい面、悪い面ある。個性を伸ばす教育はできるが、勉強の必要性を認識していない家庭では、全く勉強せず、結果的に就職等で苦労する可能性もあると。

例えば、メキシコでは、教師が非常に強い権利を認められており、親が教師なら子供は無条件に教師になれるらしい。(この話をした友人の母親が教師だった。)

例えば、チェコ人と議論していたときには、「なんで日本では英語の重要性が認識されていないのか?就職するのに英語は必須なんだから、みんな勉強するでしょ?」という意見をもらい、日本との違いを認識させられた。

 

上の話は、私のごく個人的なケースではあるが、将来のキャリアを考えたり、自分がふと何かを疑問に思ったとき、グローバルなレベルで比較することで、物事を様々な角度で見ることができる。私の例で言えば、デンマークの教育システムのデメリットを取り除いて日本で導入するにはどうしたらいいか?を考えることができるし、メキシコの教育システムの現状を知ることで、既得権益を切り崩すには、どんなアプローチがあるのか?興味を持って、メキシコの教育改革に注目することができる。

 

3.卒業後のキャリア

もう一つ、重要な多様性を挙げるとすると、卒業後のキャリアの多様性が挙げられるように思う。LBSの学生は世界中からきて、世界中に散らばっていく。ロンドンに残る人もいれば、母国に帰る人、母国以外で働くことを選ぶ人も当然いる。働くフィールドも様々だ。ファイナンスに強いことが有名だが、卒業後、ファイナンス分野で働くのは1/3で、コンサルティングも1/3、インダストリーが残りの1/3という感じだ。

 

では、こういった地理的、産業的に多様なキャリアを積む人と友人になることはどんなメリットがあるだろうか?

 

一つは、卒業後、自分の仕事上でのベネフィットがあるだろう。その企業との取引を考えている時に、貴重な窓口になることもあるだろうし、コンサルタントの私からすれば、例えば、タイの市場調査をする必要がある際に、タイで今まさに暮らしている友人の一次情報は極めて貴重であるし、もしかしたら、その産業についての概要を教えてもらえるかもしれない。

 

もう一つは、これは日本人の私費留学生が言っていた話だが、LBSの学生がどんな仕事を、どこで、どんな条件でしようとしているのか?を知ることで、世界の労働市場を俯瞰することができる。それは、自身のキャリア選択にとって非常に貴重な示唆を与えてくれる。どの地域でどんなスキルを持った人が必要とされているのか?を知ることは、確かに自身のキャリアをグローバルで考える際に、必要な情報だろう。それをロンドンにいながら、各国のヘッドハンターに聞くなどという、手間のかかったやり方でなく、簡単に手に入れることができるのは、魅力的だと思う。

 

LBSはファイナンスに強い学校と認識されていると思うが、私がLBSで学ぶ中で、卒業後の人生を間違いなく充実させてくれると思ったのが、多様性の中での経験だ。極めてソフトなテーマであるだけに、できるだけ具体的に紹介させて頂いた。皆さんのLBSへの理解の一助になれば幸いである。

(MBA2014 S.T)

MBA2013の経験が書籍で紹介されました

2012年11月より東洋経済オンラインで連載されていました「超一流MBA校で戦う日本人~世界一すごい授業が人生を変える~」が、取材対象者の卒業後も含めて加筆され『世界最高MBAの授業』として刊行されました。

 

欧州人のハンパない、歴史と伝統の”売り方”」として掲載された、MBA2013の手塚健介さんの経験談もより詳細に記されています。

 

LBSに限らず、トップビジネススクールでどのような授業を受けることができるのか、その中で何を考え、また卒業後どのような進路をとるのか、という点はMBAを目指される方にとって、参考になる内容ではないでしょうか。

(c) LBS Japan Club 2012▲ ページ先頭に戻る