MBAでのサーチライト

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オックスフォード大学の苅屋剛彦教授曰く、「概念とはサーチライト」であるという。 これは、ある概念が与えられることで、それまでは見過ごされていたことに光が当てられることをいう。

これこそが、いよいよ終わろうとしているLBS生活での学びであったと思う。授業で多くの概念に触れ、世界中から集まる仲間から多様な話を聞かされるうちに、未知あるいは意識していなかった思考法が増え、新たなものに気づけるようになったことだ。

本稿では、特にAha!という腹落ち感が強かった3つのサーチライトについて紹介したい。

  1. 1. Seeking system: 人は楽しそうな方を選ぶ
  2. 2. Self-monitoring: ロナウジーニョはネイマールより愛される
  3. 3. Change or Die: 90%の人は悪習に戻る


1. Seeking system: 人は楽しそうな方を選ぶ

「人はどのように意思決定するのか」、「組織はどのように動くのか」を極めていくことは私の仕事の大きなテーマだが、これまでは先輩方を見ながら手探りでやっていた。これを理論で考えたいと思い、LBSでは組織論を中心に受講した。

そのうちの一つで出会ったケーブル教授によれば、「好奇心」あるいは「何かを試したい」という人の欲望は、我々の祖先がアフリカから全世界に移住した大きな理由であり、あらゆるチームはこれを抑制してはいけないという。

よく「自分らしく」あるいは「自分を表現」ということが言われるが、この「Self-expression」という欲望はSeeking systemの根源であるのだ。

つまり組織においては、各メンバーを「管理」するのではなく、「自分の想いを試し、失敗できる」場所を用意するほうが、よほどチームは高いパフォーマンスをあげるということだ。例えば…
  • リスクフリーで試し、失敗させる場所を提供する
  • 失敗をベースに評価するのではなく、失敗からの成長を見る
  • 細かい管理指標を作るよりも、楽しそうな仕掛けを用意してやる気を引き出す


ダイキン工業社長を務めた井上礼之氏は、従業員の労務管理用タイムカードを廃止したところ、出勤率も稼働率も向上することとなった。性善説に立って、できるだけ管理しないほうがよいということを示す好例だ。

他の事例としては、ストックホルムのある駅がエスカレーターの混雑解消(階段に人を誘導する)ために、階段に音が鳴る楽しそうな仕掛けをしたところ、ほとんどの人が階段を使うようになった。フォルクスワーゲンがThe Fun Theoryと称して行ったものだが、ルール化したり看板で依頼するよりもよほど賢い施策だろう。

人は、「なにか新しく」「楽しそうな」ものを選ぶということである。

私の職場においては、「チームは楽しくないよりも楽しいほうが良いよね」とはもちろん全員が思っているし、私もそうしようとしてきた。
しかし「楽しく」、「試し、失敗できる」チームを構築することは、「したほうがよいもの」ではなく、「必須」なものであるということが改めて理解できた。そうでないと人は入ろうと思わないし、成果を最大化することもできない。

2. Self-monitoring: ロナウジーニョはネイマールより愛される

ネイマールというサッカー選手がいる。技術も実績も超一流。がしかし、自己中・無気力といったネガティブなイメージもまた、つきまとう。

一方彼のブラジル代表の先輩であるロナウジーニョは、ゴール数こそネイマールを下回るが、圧倒的に愛されている。それはなぜか。

谷沢永一氏によれば、「才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべてをひっくるめたところで、ただ可愛気があるという奴には叶わない」

ということだが、無邪気さ、あるいは遊びの要素を持つ「かわいげ」こそが、最強の性分であり、負けているときでさえ満面の笑顔でプレーするロナウジーニョそのものなのだ。

これをLBSに触れたリーダーシップ論で語ると、「Self-monitoring」スキルの一つであるという説明もできると思う。
Self-monitoringとは、状況に応じて必要とされる言動を読み取り、実行できるスキルである。

ネイマールは、なぜ自分ばかり批判されるのか、と嘆くが、それはサッカーというエンターテイメントにおいて、どのような言動が愛され・愛されないのかということを彼が感じ取り、それを表現できていないからとも言えるだろう。

私は入社後最初の案件の最終日、マネージャーがぽつりと、「どうやったら人に愛されるのかを考えることも大事だ」と言ったのを耳にした。
そのときは自分のスキル不足にばかり目が行っていたためその真意を理解できなかったのだが、今となると何となく理解できる。

チームで仕事をする以上、チームやクライアントに愛され、信頼されることは何よりも大事なのだ。

3. Change or Die: 90%の人は悪習に戻る

  • ダイエットが二週間しか続かなかった
  • 勉強会が3回で終わってしまった
  • せっかく時間をかけて組織変革・働き方改革をしたのに、半年で元に戻った

こういったことは古今東西で起こっている。戦略/組織論の巨匠であるLBSのコスタス教授曰く、90%の人/組織は何かを始めても半年以内に悪習に戻ってしまうという。

これを防ぐには、「変わらなければいけない」という、Personalで、Emotionalな理由を作ることだそうだ。特に人/組織に変わってもらうには、「Emotional commitment」を勝ち得る必要があるとのこと。

ここで個人的に面白いと思ったのは、コスタス教授が「Change or Die」という表現を使ったことである。

No changeでもBackでもなく、Dieということは、「変わらなければ、あるいは変わり続けなければ、死ぬ」ということを言いたかったのではないか、と個人的には推察している。

鰻の老舗「野田岩」の五代目金本兼次郎氏は、「変化し続けること」の重要性を著書で訴えているが、これと通ずるものがあると思う。長期の未来を予測するのは困難であるがゆえ、変化し・適合する力を鍛えることが未来への一番の保険であるいうことだろうか。

最後に

留学の話からは離れるが、コント日本一を決めるM-1グランプリ2018において、立川志らくが語った。

「聞いていて「面白い!上手い!」と思う噺家は、一流ではない。超一流の噺家の話は、最初それほど上手いとは思わないんだけど、いつの間に引き込まれているものなんですよね」

これも一つのサーチライトであると思う。派手なものに傾倒せず、目立たないけれど上手い。そんな人になれるのはいつだろうかと思いつつ、学生生活の結びとしたい。