筆者は日本のコア産業たる先端産業の強化を志とし渡英しています。一方、日本における多くの自動車・重工業や工程/技術集約産業、医薬/機器産業にとって、英国への注目度は高くないように感じます。(例外はあります)

とりわけBrexit後、欧州医薬品庁のアムステルダム移転に伴う医薬/機器産業の流出や、EUへの自動車輸出時の免税の(潜在的)撤廃などは、英国のGDPの2割超を占める先端産業へ壊滅的な影響を与え、日本との結びつきを更に削弱させる可能性もあります。

一方当地でモビリティ・イノベーションに携わる筆者の印象からすると、英国は依然として多くの先端産業において世界をリードしています。その魅力は、先端産業における著名なイノベーション・ハブであるシリコンバレー・イスラエル・ドイツ・中国に比肩する点も多くあると考えています。

本稿は筆者の自動運転分野でのスタートアップにおけるインターンから垣間見えてきた英国の先端産業の強みを簡易的に整理したものであり、包括的でない議論が含まれますが、先端産業に従事する読者の方の英国への関心、ひいてはLBSへの興味の契機となれればと思い筆を執りました。

 

一国における先端産業でのイノベーション創出において重要なポイントは多々ありますが、ここでは下記2点を強調したいと思います。

1. 先端産業に横展可能な、”超”先進技術を主導できる産業があること

2. 起業家・技術者・資金提供者・政策決定者から成るエコシステムが機能していること

 

1. 先端産業に横展可能な、”超”先進技術を主導できる産業があること

インターネット・人工知能・VR。これらは、軍事産業から使われ始め、その後他産業に応用された技術であることはよく知られています。あるいは自動車のカーボンファイバー・タイヤの路面識別技術・アクティブサスペンション等のコア技術の多くはモータースポーツから発展したものです。それは、軍事やショーケース産業(モータースポーツ・プロスポーツ選手向け用具等)は、費用対効果以外の指標で技術開発がなされるため、資本集約かつクローズドな研究(オープンイノベーションのメリットが少ない研究)で成長させる類の技術と親和性が高いからであると思われます。

この点において、英国は軍需・国防分野の巨人たるBAEシステムズを有し、航空宇宙分野の規模は米国に次いで二位を誇ります。さらに、オックスフォードを中心とする、「モータースポーツバレー」という名で世界的に知られる産業地域は、マイケル・ポーター教授から「世界随一の成熟した経済産業地域で、英国エンジニアリングの結晶」と呼ばれるほどの地位を確立しています。英国は、電気自動車レースのフォーミュラEの技術拠点であり、素材・回生技術等において英国企業はどの国よりも先進技術の導入に成功しています。

結果として、英国の軍需・モータースポーツ企業は、自動車部品・エネルギー等の技術で高い実績を上げるに至りました。筆者がインターンを行っているオックスフォードを拠点とする自動運転技術のスタートアップも例外ではなく、共同設立者はF1のマクラーレンの技術ラボのヘッドを務めた後にフォーミュラEのチームを設立した人物であり、自動車の電動化・自動化においてモータースポーツの知見・ネットワークが大いに活かされています。

 

2. 起業家・技術者・資金提供者・政策決定者から成るエコシステムが機能していること

シリコンバレーやテルアビブの例を挙げるまでもなく、エコシステムはイノベーション創出の中核たるものです。この点においては、言うまでもなく英国は非常に優れたシステムを有しています。

・大学主導の科学・基礎研究分野の強さ: LBSが所属するロンドン大学や、オックスブリッジを始めとする競争力の高い大学を多く有することから、トップ1%ジャーナルにおける論文の世界シェア3位に君臨

・研究の支援・法律の高レベルでの整備状況: 知的財産に関する法整備に加え、キャメロン政権時の緊縮財政でも基礎研究費は維持されるなど、研究者が優遇

・大学・政府・VCのシームレスな連携: 政府主導のプログラムや大学発の技術に紐づく形で、多分野のイノベーション拠点が構築

結果として、複合材料のブリストル、エネルギーのグラスゴーやバーミンガム、バイオのケンブリッジ等、付加価値の高い産業の技術者・資金提供者が集う拠点が英国中に存在しています。筆者が勤務するオックスフォードでは、前述の通り自動車等の先端産業が強く、私が携わっただけでも自動車・バス・航空・通信・ドローン等との多分野連携によるアイデア創出が議論されました。

 

上記のように、英国の先端産業はBrexitを踏まえても大変魅力的なものであり、筆者は日本との協働事例がもっと増えてほしいと願っています。実際、日産はリチウムイオンバッテリーの量産をサンダーランドで行っており、私の元同僚が活躍するKudan社はブリストルでドローン・ロボット等に活用できる自己位置測定・マッピング技術を日英共同チームで開発し世界トップのコア技術を持つに至っています。筆者はロンドンを拠点にオックスフォードに通ったり、他地域に視察を行ったりしておりますが、各地域における産業間連携・産学連携のあり方は目を瞠るものが多くあります。先端産業に従事されている・あるいはキャリアチェンジを検討されている読者の皆様も、ぜひ仕事や留学といった形で、同産業における英国の底力を感じ、その優れた仕組みや技術を日本の発展に役立てて頂ければ幸いです。

 

(出典:研究開発戦略センター 「英国の科学技術情勢」)

(c) LBS Japan Club 2012▲ ページ先頭に戻る